こんにちは。
機長のTenです。
最近こんな記事が出ていました。
“ANA、コクピット内で機長が副操縦士に壮絶パワハラ…退職者続出、乗客の安全脅かす”
いや~恐ろしいですね。
このお話が本当だったら非常に残念だと思います。
大前提として、パワハラはダメ!
どんな理由があろうともダメです。
そして航空業界を目指し、
パイロットになろうと頑張っている未来の後輩たちを
不安にさせてしまっていることも残念です。
今回はコックピット内の雰囲気が
どのようなものなのかをお話したいと思います。
あくまで私が経験してきた中での話ですので、
これが全てではないことはご了承ください。
それでも航空大学校から始まり、
10年以上はコックピットで過ごしてきていますので、
それなりに信頼できる情報をお伝えできると思います。
コックピット内のホントのところを知ることで、
不要な不安を取り除けると思います!
パ、パイロットってパワハラだらけなの!?
そんなことはないよ!
大丈夫!ホントのことを教えてあげるよ!
パイロットの空気感
皆さんにパイロットたちはどのように映っていますか?
空港を制服を着こなし、
荷物をコロコロさせながら颯爽と歩く姿を見て、
爽やか!カッコいい!
と思う人が多いのも事実のようです。
実際のところはそんなに爽やかなわけでもなく
(もちろん爽やかな人もいますよ)、
カッコいいのは制服だけという
(いや、稀にカッコいい人もいますよ)話です。
そもそもパイロットたちは
どのようにパイロットになったのか。
これを考えると、
少しだけパイロットの空気感が
読み取れるかもしれません。
2021年現在、
エアラインパイロットになる方法は
大きく分けて4種類です。
1.自社養成パイロット
2.航空大学校
3.私大のパイロット養成学科
4.自費でライセンスを取得する
それぞれの方法については
別記事のリンクを張っておくので、
確認してみてください。
もともと大昔は自衛隊出身者が
エアラインのパイロットを務めていました。
もちろんパイロットを育てる教官も
自衛隊出身の方が多かったわけです。
そこから徐々に自社養成パイロットが始まり、
航空大学校が設立されて
民間人のパイロットが増えてきたわけです。
その影響があるのか、
安全への厳しさ、
規律を重んじる風潮、
上下関係などの点で
民間の会社や訓練所とは思えないような
雰囲気があるのは事実です。
これが俗にいう、
体育会系と呼ばれる所以かもしれません。
令和3年になり、
それらの雰囲気はだいぶナチュラルになってきたと思いますが、
多少は残っているのだと思います。
私も航空大学校に入寮した当時は驚いたものです。
あ…こういう感じなのね…(察し)
まぁ、もともと運動部に所属していたこともあり、
特に苦に感じることはありませんでしたが。
2012年以降にできた私大の養成コースは、
外部機関に訓練委託していることが多く、
特に日本以外の訓練所でパイロット訓練を行う学校では
日本での訓練とは雰囲気がだいぶ異なるようです。
何というか、
ジェントルマン的な感じらしいです。笑
体育会系の雰囲気が、
合う・合わないは人によるかもしれません。
ここで言いたいのは
体育会系の雰囲気が悪いわけではないということです。
規律を重んじたり、
上下関係を大切にするということは
時にはとても機能します。
自社養成パイロットの訓練も、
航空大学校での訓練も、
限られた時間内に、
一定以上の訓練効果を出さなくてはなりません。
そのためには
先輩たちから必要な情報を
引き継ぐ必要があります。
もちろん同期の間でも情報交換はしますが、
それだけでは足りないからです。
先を進み、経験している先輩の話を聞かせてもらうことで、
自分たちの訓練効率を高めることができます。
そして安全を守るために、
全員が決められたことをきちんと行うという
雰囲気を保つ必要があります。
事故は決まって油断から発生します。
『これ位いいか』と、
適当なことを1人が始めると、
周りもそれを見過ごすようになります。
そのような油断を断ち切るには
規律が整っていることが
重要なことなのかもしれません。
体育会系の雰囲気に慣れていない人は
少し戸惑うかもしれないね
体育会系の雰囲気=パワハラとはならないですよね?
じゃあ例の記事はウソってこと?
実際にパワハラはあるのか!?
体育会系の雰囲気だけであれば
パワハラとは言いませんよね。
では実際にパワハラはあるのか?
現役のエアラインパイロットとして
回答するのは躊躇われますが、
答えは…まぁあるな。
やっぱりパワハラはあるのか!
最悪だーーー!
がっかりさせてしまってごめんなさいね。
残念ながら無いとは言えないのです。
本当は堂々と『無い!』と答えたいんですけどね。
ちなみにどれくらいの頻度で
パワハラ案件に当たるのかというと、
ほぼ無いです。
どゆこと?
あるの?無いの?
エアラインに入ってから、
様々な訓練や、
様々な機長とご一緒してきましたが、
私が『パワハラを受けた』と感じるような事は
一度もありませんでした。
これ難しいのですが、
正直なところ人によるんだと思います。
パワハラは、
受け手が『パワハラだ!』と感じた時点で、
もうそれはパワハラなのです。
逆に受け手がパワハラだと捉えなければ
パワハラにはならないのですよね。
航空大の先輩にはヒドイのがいたなぁ…(遠い目)
必ずしも理不尽とは限らない
繰り返し言いますが、
パワハラは絶対にダメです。
指導とか、教育とか、
いろいろな言い方あるかもしれませんが、
どんな理由があってもダメなものはダメ!!
何がダメって、
その人の性格や人格を否定するようなことは
どんな理由があっても発言してはダメです。
これを大前提にお話しすると、
厳しい指導が必要な時はあるかもしれません。
厳しい指導といっても
大声で怒鳴り散らすことではありません。
“安全”を守るためには、
どうしても伝えなくてはならないことを、
短い時間で、確実に伝えなくてはならないからです。
ご承知のとおり、
飛行機はとても速い速度で飛行し、
一歩間違えると大惨事になります。
特に訓練中は知らないことや
経験したことのないことが多く発生します。
事前に勉強して臨むことは当然としても、
それでも間違えるものです。
それが普通です。
間違える場所が地上であればじっくり説明したり、
考える時間もあるでしょう。
上空ではそうはいきません。
教官は限られた時間の中で間違いを正し、
飛行機を安全な状態へ回復、
または維持させなくてはならないのです。
ですからパイロットたちは
フライト訓練の後に
デブリーフィングを行います。
時間をかけて振り返りを行い、
何が正しくなかったのかを考え、
経験として積み重ねていくのです。
これはエアラインパイロットになった後も
同じかもしれません。
副操縦士として業務に就く場合、
振り返り作業の多くは個人に任せられます。
一人前のパイロットとして
発令を受けているからです。
それでも機長を目指すとなると、
経験が足りません。
先輩パイロットである機長から
アドバイスをもらったり、
反省を促されることもあるかもしれません。
そのほとんどが“パワハラ”と言われるものではなく、
適切なアドバイスであることは言うまでもありません。
受け取る側と伝える側
話が長くなりましたが、
結局のところコックピット内において
パワハラと言われるようなことが
あるのか、ないのかで問われれば、
残念ながらあるという答えになります。
早くパワハラと言われることのない
コックピットになりたいものです。
少しでも早く、
パワハラの無いコックピットの状態にするために、
伝える側(=主に上司になると思います)と
受け取る側(=主に部下になると思います)の
両方が意識を改めないといけないのかなと考えています。
伝える側
・その人の性格や人格に言及してはいけない
・自分の立場を利用する発言はしてはいけない
・自分の考え方を押し付けない
・コーチングを学ぶ
・謙虚な姿勢
受け取る側
・教えてもらうではなく自ら学ぶ
・指摘されないくらいの実力を身に付ける
・謙虚な姿勢
まずは伝える側。
はっきり言ってパワハラの原因は、
伝える側が変わればほぼ解決すると思います。
指導するにあたって、
人の性格や人格に触れてはいけない、
立場を利用して相手を屈服させるような表現はアウトです。
良かれと思って教えている内容が、
個人の考えであり、
それの押し付けであってもいけません。
コックピットでよくあるのが、
その人特有のProcedure。
もちろん会社の規程類は守っているのですが、
独自にアレンジされていたりすることがあります。
アレンジしている本人は
良かれと思ってやっているのでしょうが、
それに付き合わされている側はたまりません。
人によって飛行機の飛ばし方が
異なるなんてことがあっては困るのです。
そして指導する側としては、
ティーチングも大事ですが、
できればコーチングのスタイルをとる方が
良いのではないでしょうか。
全く知識や技術の無い人にコーチングをしても
上手く機能しないでしょうが、
相手はプロのパイロットです。
手取り足取り教えようとせずに、
考えさせ、自ら答えを導き出せるようにするコーチングが
コックピットの環境には適していると思います。
また伝える側と受け取る側の両方に言えることは
謙虚であれということです。
お互いを尊重して、
学ぶ姿勢が両者に求められます。
自分の至らないことを指摘された時に、
反発してしまうのか、
糧として吸収できるのか、
それは個人の謙虚さに寄るのではないでしょうか。
受け取る側に求められることは、
教えてもらうのではなく自ら学ぶということです。
受け取る側としては
この姿勢さえあれば大丈夫です!
受け身になっているから突っ込まれる。
自ら学ぼうとする姿勢のある人に対して、
それを否定するような人はほとんどいません。
きっといろいろと役に立つ情報をくれると思いますよ。
また先輩や教官からあれこれ言われたく無い人。
それならば実力をつけましょう!
実力もないのにあれこれ言っても、
言い訳にしか聞こえないんですよね。
実力があれば何にもいわれません。
これが一番楽なわけ!
まとめ
最後にまとめて終わりましょう。
コックピット内でパワハラはあるのか?
あります。
でも少ないです。
本当にわずか。
コックピットは狭い空間に
上司と部下の二人でいるようなもんです。
お互いが気を付けなければいけないことがあります。
少しでも早く、
コックピットからパワハラがなくなることを祈ります。
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